沈黙が落ちた時、タイミングがいいのか悪いのか、頼んだドリンクがやって来る。

空のグラスを店員さんに渡しながら、加治くんの言葉の意味を考えた。

私だって、ずっとそこは引っかかってる。

でも先輩は、いい加減な気持ちじゃないんだと思う。


この間見てしまった、先輩がキスしているところ。

あれは私には本当にショックで、何がショックだったかっていうと、先輩がちゃんと、女の人を好きなのが伝わってきたこと。

適当に遊んでるわけじゃないって、知ってしまったこと。


どっちがよかったんだろう、とあのあと考えた。

B先輩が女の人に対して適当なのと、そうじゃないのと。


どっちも、正直あんまり嬉しくないけど、やっぱり先輩が不実よりは、誠実なほうがいい。

好きでもない人と遊んでるよりは、ちゃんと相手を好きでいてくれるほうがいい。


そんな好きなら、なんで毎回すぐ終わっちゃうのっていう疑問が残るけど、そこはもう、私が考えて答えが出る部分じゃない。

信じるしかないと思った。

私の知ってるB先輩は、確かにちょっと変わってるかもしれないけど、思いやりがあって優しくて、たぶんすごく真面目な人。

自分の、その感覚を信じるしかないと思った。



「別に俺、あの先輩を悪く言いたいわけじゃないからね」



黙ってしまった私を気づかうように、加治くんがのぞきこんでくる。

加治くんも優しい。



「うん、わかってる」

「また遊んでくれる?」



返事は出てこなくて、彼と目を合わせたまま固まった。

加治くんは、苦笑すると、肩をすくめて。



「まあ、また何度でも誘うから。気が向いたらOKしてよ」



最後にはにっこりと、きっと私の罪悪感を軽くするために、明るく笑ってくれた。