「どれだけ真面目なのよ。向こうは単にラッキーと思ってると思うよ。喜ばせるつもりで、遊んであげたら」
「そんなの、失礼な気がする」
失礼と思うことすら、うぬぼれが強すぎる気がする。
自然と眉根が寄ってしまうのを感じていたら、なんで? と訊かれた。
「加治くんはないって、決めてる感じだね」
「え…」
「誰かいるんだっけ?」
辞書を引きながら、真衣子が目だけ上げて尋ねてくる。
「そう、いうわけじゃ、ないけど…」
「なら、考えすぎずに、楽しく過ごしてきなよ。いいなと思ったらまた遊んで、ないと思ったらやめりゃいいんだしさ」
「そんな単純なもの?」
「さあ。あたしも偉そうなこと言えるほど、恋愛してきてないからね」
口元を微笑ませてそう言う真衣子の声に、少し苦いものを感じて、何か切ない恋でもしてたのかなと思った。
そういえば、どんな高校生活だったのか、お互い突っこんだ話をしたことってない。
「ねえ真衣子、今度泊まりに来てよ」
「何よ急に。行くけど」
甘えてみると、あきれたように髪をかきあげつつ、真衣子は独特のクールな笑みでうなずいてくれた。
構えすぎても、変に無神経でいても、加治くんに悪い。
正直に楽しんでこようという気持ちと、そんなの意識しちゃって絶対無理なんだから、今のうちに断るべきという思いが交差する。
なんせ、男の子とふたりで出かけたことなんて、ない。
会話が途切れても、つまんない子って思わずにいてくれるだろうか。
思われたって、別にいいんだけど…。
なんで私、必死にこんなこと考えてるんだろうとため息をつきながら、奥まった校舎の前でバスに乗ろうとした時。
棟と棟をつなぐうねうねとした道に、見慣れたうしろ姿を見つけた。
携帯をいじりながらなので、さすがに走らず、歩いてる。
私はバスに乗るのをやめて、追いかけた。