「そうです」
「珍しいね、こんな地方の大学に」
「ひとり暮らしがしたかったので」
そう、と優しく笑うそのイントネーションには、方言というほどではない、どこかやぼったい愛らしさがある。
このへんの訛りなのかな、と考えていると、彼が右手の方向を指さした。
「あれ」
「あ、ありがとうございます」
差された方角から、水色に塗られた可愛い小型のバスが、ゴトゴトと走ってくる。
「“ホール前”はトラップだから。“ホール入口”で降りないと、5分歩くよ」
「はい」
お礼を言いつつ、なぜそんなトラップが、と笑いがこみあげた。
変な大学。
私が乗りこむうしろから、この子を入口で降ろしてあげてください、と運転士さんに言ってくれる。
にこにことうなずく運転士さんに頭を下げて、脚をかけていたステップから飛び降りた先輩は。
手を振ろうとした時にはもう、後続のバスに向かって走っていってしまったあとだった。
残念な気持ちで座席に身を沈めると、あのいい匂いが、かすかに私を包んでいるのに気がつく。
なんの匂いだったかな、と考えながら、入学のしおりを開いた。
これが、私とB先輩との出会い。
「みずほちゃんでいいよね。佐瀬(させ)さん、て言いづらいから」
「みんなそう言います」
入学してから一週間、ほぼ毎日、いや確実に毎日、夜は飲み会だ。
巨大なキャンパス自体が町のような役割を果たしているこの大学では、新入生はもう見ればそれとわかるらしく。
構内を歩いているだけで、いつの間にか手がサークル勧誘のチラシでいっぱいになる。