「買ってって食おうか」



商店街に並ぶお惣菜を見ながら、先輩が言った。

即座に同意する。

どれも家庭的で温かく、おいしそうで、お店に入るより魅力的に思える。


先輩がなぜこの町に住もうと思ったのか、わかるかもしれない。

ここはあの、善さんのお店があった町に少し似てる。


日用品を買って戻ると、ベランダに出るガラス戸から、午後の日差しが優しく部屋中を照らしていた。

この部屋も、フローリングだけど布団とテーブルという、床で生活するスタイルになっている。

どうしてだか、私はそれがすごく嬉しかった。



「お布巾、おろしちゃいますね」

「うん、ね、全部並べちゃっていい?」



お惣菜の袋をのぞいて、先輩が訊く。

小さなキッチンで新品の布巾を絞りながら、私は改めて問いただした。



「いつになったらみずほって呼んでいただけるんでしょう」

「自分だって、万里って呼べないくせに」



じろりとにらみあう。



「先に呼んでいただければ、私も呼びやすいです」

「すっごいお互い様」

「何がそんなに嫌ですか?」

「恥ずかしい」



思わずそちらを見ると、にやりと笑う顔と目が合う。

しまった、やられた。

テーブルを拭きながら、自分が真っ赤になっていくのがわかった。

もう、いきなり素直になるとか、ずるい。



「そんなに呼んでほしい?」

「当然です。呼んでくれないのなんて、先輩だけです」

「じゃあ呼んでくれる人のとこ、行きなよ」



煮つけを投げつけてやろうかと思った。

意地悪、意地悪、意地悪。