『明日、用事もないんだろ?』
『そうだけど』
『おかしなことしろっつってんじゃ、ねえからな』
『…する流れをつくってるよね?』
食卓の下で脚を蹴られたんだろう、先輩が呻く。
善さん頑張って、と握り拳をつくった私に、先輩は何か言いたげな視線を送ってきて。
やがてひとつ息をつくと、わかったよ、と仕方なさそうにうなずいた。
『俺も泊まるよ』
驚いたことに、そのあと先輩がつぶれた。
たぶん善さんは、私の思惑を汲んでくれただけじゃなく、単に先輩と、もう少しいたかったんだろう。
終始ご機嫌にお酒を勧め、断ると殴られるので注がれるまま飲んだ先輩は、見た目よりはるかに限界を超えてたらしい。
食事が済むなりダウンして、やっとのことで二階に上がり、布団に倒れこむと、そのまましばらくうとうとして。
夜も更けた今、ようやく話せるまでに回復した。
この部屋は、電気も水道もガスも通ってる。
貸し出さずに、善さんの第二の作業場として使われていたんだそうだ。
「ぐるぐるする…」
「飲みすぎです」
悔しそうに、呻きともぼやきともつかない声を発する。
「どうしてアメリカに?」
「お世話になった教授が、調査チームに人手が足りないって言うから。手伝いに行ってたんだ」
「発掘ですか?」
「そうだよ、マストドンてわかる?」
首を振ると、マンモスに似てる哺乳類だよ、と説明してくれる。
「それをずっと掘ってる現地の大学と協力してね…」
消え入るように声が途切れた。
枕に顔をうずめて、先輩が沈黙する。