あまりの田舎ぶりに、呆然とした。
だだっ広いキャンパスは、一歩出ればのどかな田園風景に迎えられ、要するに出たところで何もない。
都心にだって、田んぼや畑はある。
でもスケールが違う。
すごい、とため息が出た。
これが、地方。
入試はもう少し都会の校舎で行われたので、通学することになる本キャンパスを初めて訪れたのは、入学式である今日だった。
慣れないスーツを身に着けて、事前に送られてきた案内状を見る。
校門から式典会場までは、構内を回遊しているバスに乗れという指示が、どうもぴんと来ていなかったんだけど。
いざ来てわかった。
これは、バスが必要だ。
さて、と校門前のバス停の案内図を見て、ちょっと困った。
意外と複雑だ。
ここから見える校舎の群れのさらに奥に、馬術練習場やら武道場やら、果ては国技棟なんてものがあるらしく、路線が入り組んでいる。
どれに乗るのがベストなのかわかりかねていると、人の走ってくる音がした。
スニーカーが地面を蹴る音、バッグの中身が揺れる音。
そして少し弾んだ息の音と一緒に真横に来たのは、なんとも言えないいい匂い。
これ、なんだろう、懐かしい匂い。
腕時計と時刻表を見比べているその人のために、少し場所を譲ると。
軽く見あげる高さにある顔が、びっくりしたように一瞬こちらを見て、はにかんで笑った。
目を合わせているようで合わせていない、人見知りらしい態度のわりに、拒絶されている感じも受けない。
黒目がちの瞳が、少し色の抜けた前髪からのぞく。
犬みたいだな、と思った。
「あの、イベントホールって、どのバスですか?」
どう見ても先輩なので、知っているだろうと尋ねてみた。
カーキのパーカーに両手を入れてバスを待つ体勢になっていた彼は、ぱっとこちらを見て。
「…東京の人?」
意外と普通に、話しかけてきた。