黙るしかできない私に、軽くため息をついた真衣子が、脚を組んで携帯を開く。
「加治くん呼ぶよ、いいよね」
「えっ」
「あんたをここまで運んでくれたんだよ。目も覚めて、わりと元気だって知らせてあげないと」
「そうなの…」
加治くんにも、心配と迷惑をかけた。
ここは、たぶんどこかの校舎の医務室だ。
コートからは相当遠かっただろうに、運んでくれたんだ。
加治くんに合わせる顔なんて、ないよ真衣子。
あんな人やめなよって、忠告してくれたのを無視したくせして、こうして傷ついて折れて。
全部覚悟してたことだけど。
こんな状態になるなんて、それって結局、覚悟なんて全然できてなかったってことじゃない?
少したって現れた加治くんは、私の無事を喜んでくれて、でもずっと、厳しい顔をしていた。
いつも明るくてにこにこしている加治くんの、あんなに固い表情を、初めて見た。
呆れるよね、ごめんね。
こんなみっともない自分、消してしまいたい。
でも消えるなら、最後にB先輩に会いたい。
そんなふうに思う自分を、愚か以外の何ものでもないと思った。
後期が始まると、B先輩はカリキュラムが変わってしまったらしく、それまでほど顔を合わせなくなった。
3年になると、1、2年次と違い、通年の授業が減る。
きっとそのせいだと。
避けられているわけじゃないと、必死で信じた。
母と兄からの連絡は、来なくなった。
私の頭が冷えるのを待つことにしたんだろう。
けど、勝手なことに私は、ふたりに見捨てられたような気持ちになった。
10月に入っても、暑い日が続いた。
いつまでもぐずぐずと終わらない夏に、イライラと焦れた。
強い日差しは、あの部屋を思い出させる。
汗ばむ肌は、あの身体を思い出させる。
もう許して。
「加治くん呼ぶよ、いいよね」
「えっ」
「あんたをここまで運んでくれたんだよ。目も覚めて、わりと元気だって知らせてあげないと」
「そうなの…」
加治くんにも、心配と迷惑をかけた。
ここは、たぶんどこかの校舎の医務室だ。
コートからは相当遠かっただろうに、運んでくれたんだ。
加治くんに合わせる顔なんて、ないよ真衣子。
あんな人やめなよって、忠告してくれたのを無視したくせして、こうして傷ついて折れて。
全部覚悟してたことだけど。
こんな状態になるなんて、それって結局、覚悟なんて全然できてなかったってことじゃない?
少したって現れた加治くんは、私の無事を喜んでくれて、でもずっと、厳しい顔をしていた。
いつも明るくてにこにこしている加治くんの、あんなに固い表情を、初めて見た。
呆れるよね、ごめんね。
こんなみっともない自分、消してしまいたい。
でも消えるなら、最後にB先輩に会いたい。
そんなふうに思う自分を、愚か以外の何ものでもないと思った。
後期が始まると、B先輩はカリキュラムが変わってしまったらしく、それまでほど顔を合わせなくなった。
3年になると、1、2年次と違い、通年の授業が減る。
きっとそのせいだと。
避けられているわけじゃないと、必死で信じた。
母と兄からの連絡は、来なくなった。
私の頭が冷えるのを待つことにしたんだろう。
けど、勝手なことに私は、ふたりに見捨てられたような気持ちになった。
10月に入っても、暑い日が続いた。
いつまでもぐずぐずと終わらない夏に、イライラと焦れた。
強い日差しは、あの部屋を思い出させる。
汗ばむ肌は、あの身体を思い出させる。
もう許して。