遅れて轟く破裂音に、近くの民家からもぱらぱらと拍手が沸き起こる。

見ればみんな、縁側や二階の窓から顔を出している。

花火だ。


すごい、こんな間近で見るの、初めて。

目の前というより、もう真上で花開いて、油断すると火の粉を浴びそうな気すらする。

そういえば今日、駅で浴衣姿の人を見た。



「お祭りですか?」

「そう。会場は人混みがすごいから、こういうとこで落ち着いて見るのが、絶対いいよ」

「特等席ですね」



先輩がにこっと笑って、開けた缶ビールを渡してくれる。

ふたりで乾杯して、屋根の上で、猫みたいな気分で光る空を見あげた。


前庭に出てきた善さんの、煙草の赤い火が見おろせた。

B先輩が呼びかけて、缶をひとつほうる。

驚くほどの正確さで受けとめた善さんは、お礼代わりに煙草を振ってから、こわごわプルタブを引いて。

予想どおり噴き出した泡に、私たち全員が笑った。


2時間近く続いた花火を最後まで鑑賞して、部屋に戻る頃には、耳が麻痺していた。

大きな花火が打ちあがるたび、身体の底がびりびり震える、初めての感覚。

ただ見ていただけなのに、ふらふらになってへたりこんだ私を先輩が笑った。


全然変わらない先輩。

相変わらず、ふわりと優しくて、時折意地悪な先輩。


ねえB先輩。

好きです。



「そうだ、通りのレコード屋さん、ご存じですか?」

「知ってるも何も、俺、あそこでたまに店番してるよ」



えっ、と先輩を見あげる。

開け放ったままの窓枠に腰を下ろした先輩は、夜の心地いい風にうしろから吹かれながら、楽しげに笑った。



「あのマスター、実はバックパッカーで。たまに突然、まとまった休みとって旅に出ちゃうんだよ」

「その間は、先輩がお店に?」

「うん、ほんとにたまにだけど。なんで?」



今日通りかかった時、店先の窓に、以前先輩が弾いてくれた、あのミュージカル映画のLPジャケットが飾ってあったのだ。

それで先輩のギターを思い出して…と話しかけたところで、そうだ、と思いついてしまった。