「何よ、元気じゃん」

「え?」



アルバイト先の書店に真衣子と加治くんが現れた。

真衣子はカウンターの中の私をじろじろと見ながら、ついでにこれ、とレジ横のボールペンを、雑誌の上に置く。



「この人が、あんたの様子が変だったって言うから」

「だって実際、変だったんだよ。あの先輩と、言い争ってたみたいな感じで」



真衣子の会計を済ませると、ちょうど横にいた店長さんが、早めに休憩入っていいよ、とにこやかに言ってくれた。

その言葉に甘えて、エプロンを外しながら表に出る。

うるさすぎて逆に気にならないくらいのセミの声が、熱く重たい大気中に充満していた。



「言い争ってたわけじゃないの、私がバカみたいに、癇癪を起こしただけで」

「なんでまた?」



お店の前の自動販売機でドリンクを買ってふたりに渡した。

冷えたペットボトルは、とり出した瞬間にだらだらと結露のしずくを垂らしはじめる。



「母がね、ちょっとびっくりするようなこと言いだして」



どんな、と身を乗り出すふたりに、私は昨日のB先輩とのやりとりを思い出して、恥ずかしくなった。

そうだ、あれは、まだ昨日のことなんだ。





――あの、先輩。


ついにそう切り出したのは、もう夕方だった。

バイトに出かける支度をしながら、先輩が「俺のいない間も、好きに出入りしていいよ」と言った時。



「私、もう失礼します、あの」



…ありがとうございました、と正座して頭を下げてから、なんだか微妙なこと言っちゃったな、と顔を上げづらくなる。

別にそんなつもりじゃなかったけど、いくらなんでも含みがありすぎるんじゃない?

畳を見つめながらそんなことを考えていると、パーカーをはおった先輩が、でも、と困惑したような声をあげた。