「後悔してますか?」
「んー…、誤解を恐れずに言うなら、そうだな、うん」
してるよ、とほおづえをついて微笑む。
背中に回った手が、私のうしろ髪で遊んでいるのを感じる。
汗ばむ胸に耳をつけると、トクトクという音が聞こえる。
それと先輩の匂いに安心して目を閉じると、そのまま眠りそうに見えたのか、そっと揺り起こされた。
「シャワー浴びてきたほうがいいよ、けっこうひどいことになってるの、知ってる?」
「ひどいこと?」
言いながら先輩が、私の背中あたりの夏掛けをめくる。
振り返ると、シーツにそこそこ大きな赤い染みができていて、ぎょっとした。
それがこすれたような汚れも、あちこちについている。
えっ、あれ、私の?
「あんなに出てたんですか」
「俺も最初全然、気づかなかった」
ほんとに出るんだね、という声には、妙な感嘆が含まれていて、わからないでもない。
頑張ったね、と背中をなでてくれる。
「やっぱり怖かったでしょ、途中でやめてあげられなくて、ごめん」
「怖がってましたか」
「そう見えたよ」
恥ずかしくて、胸に顔をうずめる。
なんてよく見てる人だろう。
確かに怖かった。
震えるくらい。
でもそれは、たぶん先輩の考えてるような理由じゃなく。
これを最後まで続けたあとも、先輩への想いが変わらないか、不安になったからだ。
だって、あんなに圧倒されると思わなかった。
先輩が、男の人に変わる瞬間。
私は女で、彼は男なんだと、思い知らされるような先輩の変化を目の当たりにして。
それを自分が受け入れられるのか、恐ろしくなった。