言い終えて、ふっと脇に煙を吐いた。

手元で煙草を叩いて灰を落とす、何気ない仕草。

呆然としていた私は、ようやく頭の回路がつながった。


もしかして。

それを訊くために、待っていてくれたんですか。



「ご両親と、また何かあった?」



立ち入ってもいいものか、はかりかねているように、遠慮がちに微笑む。


先輩のバカ。

どうしてそんなに優しいんですか。

犬とか猫に懐かれて、どうにも突き放せないような、あとに引けなくなってしまったような感覚ですか?


私が一番じゃ、ないくせに。


自分でもびっくりするくらいすねた考えが浮かんだ。

私、どうかしてる。


ふと先輩が、持っていた煙草をまたくわえて、私に手を伸ばした。

たぶん頭をなでてくれようとしたんだろうけど、私はとっさにその手を払いのけてしまい、ひとりで動揺した。

軽く目を見開いた先輩が、すぐに手を引っこめる。

あ、とよく考える間もなく、その手をつかんでいた。


違うんです、ごめんなさい。

さわられるのが嫌だったんじゃないんです。

少しいじけて、何もかもがちくちくした刺激に感じられて、過敏になっていただけで。



「どうしたの」



先輩が、私の手を握り返してくれた。

並んで手を繋ぐ時みたいに、手のひらを合わせて。


もう片方の手にはバッグと上着があるため、両手がふさがってしまった先輩の、くわえた煙草から灰がはらりとTシャツに落ちる。

気づいているだろうに、先輩はそれを払うこともなく、私の手を離さずにいてくれた。


意外なほど温かい手。

そこから、優しい何かがゆっくり流れ込んでくる。

手と手が触れているだけなのに、不思議なことに、これまでのどんな触れあいよりも深く、穏やかに。

どうしたの、って問いかける先輩の心が、私だけを見てくれているような気がした。