――あとになってみれば、転機の日。

昼間の私は、そんなことはつゆ知らず、アルバイトに行くためテニスの練習を途中で抜けて、構内を走っていた。



「あっ、すみません!」



ドン、というより、べちょ、という感触でぶつかり、双方が慌てて離れる。

すみま、と言いかけたのを、私の顔を見て、ごめん、とわざわざ訂正したのはB先輩だった。



「すごい汗だね」

「先輩こそ」



濡れたTシャツ一枚で構内を走っていた先輩は、バッグとパーカーをまとめて肩に引っかけている。

暑いんだもん、と笑いながら、シャツの胸元を引っぱって頬の汗を拭うので、すそからおへそと下着がのぞいた。

なんとなく目が泳いでしまう。



「何してらしたんですか?」

「あれ」



先輩が指さした背後では、バスケットコートで、少人数のゲームが行われていた。

そういえば先輩、中学時代はバスケ部だっけ。



「久々だったからハマっちゃった。シャワー浴びたい」

「更衣室で浴びていかれたら?」

「だって着替えもないのに」



そりゃそっか。



「でもそれで電車乗るの、つらいですね」



ふと思ったことを口にして、後悔した。

ん…と曖昧に微笑んだ先輩が、何を考えてるのかわかってしまったから。


あの人のところに寄るんだ。

駅の反対側の、綺麗なアパートに住んでる人のところに。

手に提げたラケットとテニスバッグをぎゅっと握りしめると、先輩のほがらかな声がする。



「これからバイト?」

「そうなんです、それじゃあ」



どうにか返事だけして、私は挨拶もそこそこに去った。

構内に点在する、綺麗な箱型の更衣室に飛びこんでドアを閉める。

ロッカーに荷物をほうりこみ、誰もいなかったのでカーテンも閉めずに服を脱ぎ、シャワーを頭からかぶった。