B先輩という人がいた。
派手なサークルに属しているとか、メジャーな寮に住んでいるとかでもないのに、有名だった。
どんな時も、とりあえず色あせたジーンズにスニーカー。
暑い日でもTシャツの上にカーキのパーカーを羽織って、涼しくなるとそれがモッズコートに変わる。
構内で見かける時は、たいてい走っている。
と言っても全力疾走しているわけではなく、ちょっと急いでます、という感じに身軽に駆け足をしている。
もしくは、足早に歩いている。
あんまり見た目に頓着しないんだろう、髪はいつもぱさぱさと適当に浮いていて、ラフといえば聞こえはいいけれど、年中寝起きみたいにも見えた。
人と群れているところは見たことがない。
たらんと長い上着のポケットに両手を突っこんで、いつもひとりで、どこかに向かって急いでる。
誰に聞いても、なぜ彼が有名なのか説明できる人はいない。
だけど誰もが、彼を知っている。
B先輩。
これは私が彼と過ごした、ひと夏の物語。