「…………」


せっかくハナが止めてくれたのに、また泣きそうになって、ぎゅっと強く唇を噛んだ。

泣きたくはないよ、こんなことで。

だって今泣いてしまったら、これまで押さえてきたいろんなものが、全部、溢れてしまいそうだから。

これまで、必死で。


「そっか」


ハナが、そっと呟いた。

目を向けると、ハナもわたしを見ていた。

じっと、表面だけじゃないどこか深いところまで、その目に映そうとしているみたいに。


「セイちゃんの世界が綺麗に見えないのは、そのせい?」

「え……?」


驚いた。今わたし、そんなこと言ったかな。

ううん、言ってない。今は、そんなこと何も。


「ハナ、憶えてたの? わたしが前にそう言ったこと」


そう、今は言っていないけど、初めてハナに会ったときに勢いにまかせていらないことを喋ったのを憶えている。


『こんな世界、汚れたものしかないんだから』


なんでよく知らない人相手にあんなこと言っちゃったんだろうって、そのあと何度も後悔した。

まだハナのことを知らなかったあのとき。

わたしはよく憶えている。

だけど、ハナの記憶にはもうないはずのあの日。


「……ごめん。たぶんセイちゃんが考えてるときのこと、俺は憶えてないけど」


ハナはこてんと首を傾げて、困った顔で笑った。

だったらなんで、とわたしが訊くより先に、「でも」そう続けて、少しだけ目を細める。


「セイちゃんが、そう思ってるように見えた」