「……だけど、あのときに見たものは今じゃもう、全部嘘になっちゃった。なにもかも変わっちゃって、もとには、戻らなくて」


綺麗なもの。大切なもの。


なんで変わっていくのかが、不思議で仕方がなかった。

だけどそれでも止まらずに形を変えて。いつのまにか、もう二度と、戻らなくなってしまっていた。


変わった理由はわからないまま、でも、あの景色にはもう出会えないって、そのうち知った。

そうしたらいつのまにか自分が今いる何気ない景色まで、どんどん汚れて見えるようになった。


どんなに大切なものも、ずっとは残らないんだって気付いた。

そんなことを思うほど、どんどん世界は淀んでいった。

何も見たくなくなった。いろんなものが嫌いになった。


大好きな大切な思い出は、思い出すと心臓がぎゅっとなるから、ずっと奥に仕舞い込むことにした。

無駄な期待も持たないことにした。

目を瞑って、耳を塞いで、小さな殻に閉じこもるみたいにして自分を守ることにした。


だけど。


「……今でも、時々思うよ。あのときみたいに戻れたらって」


叶うはずはないんだけれど。

戻れるはずもないんだけれど。

それでも思う。

もう一度、家族になれたら。