──カシャ


その音は、今のきみを1枚のフィルムに留めて止めるための合図。

きみがいつか……1日経てば忘れてしまうこの瞬間を、きみにいつまでも憶えていてもらえるように。

きみもいる風景を。


「撮れた?」


ハナがこつこつと階段をのぼってきた。階段の終点でふたり並んで座りながら、何もない場所で、どこでもない風景を眺める。


「ありがとセイちゃん。ちょっと緊張した」

「なにそれ。人のことは勝手に撮るくせに自分が撮られるのは緊張するんだ?」

「俺、勝手に撮ったりなんかしないよ」

「わたしがどれだけ勝手に撮られてると思ってんの」

「ごめん。ちょっと記憶にないなあ」


ハナが悪戯気にそんなことを言うから、わたしは「ばか」と呆れながらも笑った。

そうしたらハナも一緒に笑って、わたしからカメラを受け取って、それから「ねえセイちゃん」とわたしを呼ぶ。


「これでもう、泣かないで済む?」


ハッとした。ハナの言葉に。

ああ、そっか、と思い出す。


「…………」


大きく息を吐き出して、おでこを膝に付けた。

丘の下で動けなくなったときと同じみたいに小さくなって、でも、気分は、全然違った。

軽く目を閉じる。小さな世界。