「カメラ、持ってる?」
「うん、持ってるよ」
「貸して」
「いいけど、どうするの?」
「写真撮るんだよ。カメラってそれ以外何に使えるの」
「何を撮るの?」
「ハナを」
「俺を?」
「ハナを。撮るの」
立ち止まったままのハナのところへ、わたしが下りて、カメラを受け取る。
案外軽い一眼レフを落とさないように大事に持って階段の一番上に戻り、そうして、カメラを目の前に掲げる。
四角く切り取られた視界。
丸いレンズの向こう。
わたしだけの、額の中。
見渡せる景色は、初めて見たあのときと変わらず息を呑んでしまいそうなほど。囲われていない空と、わたしときみが過ごす街。
わたしだけじゃ気づけなかったその広い世界の中心に、今は、きみがいる。
「ほらハナ、笑って」
「笑ってるよ」
「もっとだよ。満面で。1たす1は?」
ふっと微笑む。困ったみたいに。
でもそれは、晴れ渡る青空に透けて溶けてしまいそうなくらいに、柔らかな表情。
「に」