「わあ! やったあ!」
今、ゴールまでの階段は6段。じゃんけんは勝ったけれど、グーでは「グリコ」で進める段は3段だけ。
「んー、悔しいなあ」
なんて言いながらもハナが余裕な顔なのは、まだ勝負が決まったわけじゃなくてわたしに並ばれるだけだからだろう。
でも、ハナには申し訳ないところなんだけど、絶対に勝ちたいわたしはここで、最終手段の奥の手を使う。
「ぐ、ん、か、ん、ま、き!」
ぴったり、言い終わるのと同時に、左足で長い階段の終わりを踏んだ。
ゴールはあの細い小道の突き当りだ。日当たりのいい、近所の野良猫のお昼寝スポット。
「やったあ! ゴールだ!!」
「え。ちょっとセイちゃん、なにそれ」
「さあ、わたしの勝ちだね、ハナ」
くるりとわたしが振り返ると、ハナは、腕を組んで呆れ顔で見上げていた。喜ぶわたしと目が合うと、ふっと息を吐き出す。
「まいったな、セイちゃんには敵わない」
そう言って笑うハナの髪が、ふわふわと風で揺れている。
あ、って思った。
透明な空。駅と高架。噴水の公園。長い階段。坂に建つ町と遠くの街。
わたしはハナを見ていた。
わたしの立つ場所より少し下に居るハナを。近くて遠い、この景色のその中で。
ハナの居る風景。
「ハナ」
「ん?」
「ちょっと、動かないで」
のぼってこようとしていたハナは、きょとんとしながらも足を止めた。