いつもよりも早く家を出た。

制服を来て、鞄を背負って。毎日通う学校までの道を、まだ静かな朝の中、足音を立てて進んでいく。

結局、探したかったものは見つけられないまま。

夜が更けて朝が来る。いつも通りの日々に、もう、嫌気が差すことすら忘れた。


「……空、薄いな」


少し家を出るのが早すぎたかもしれない。もともと朝の始まりが遅いこのあたりは、本当に静かで、わたしがゆっくり吐いた息さえ、やけに大きく響いて消える。

一歩、一歩、空を見上げながら歩いていた。歩き慣れた道だ。そのうえ人も車も見当たらない。

前なんて向かなくたって、平気で進んでいける。

ローファーがこつこつと、あんまり良くないリズムで、アスファルトを蹴っていく。


いろいろ、思い出した。

小さな頃の記憶。


ずっとずっと小さい頃に、お父さんとお母さんの手に引かれて見上げた、どこまでも続く果てのない暗闇。

怖いのが苦手で真っ暗が大嫌いだった小さなわたし。でも、そのとき見た暗闇の世界だけは、他のどんなものよりわたしの心を鷲掴んだ。

小さな光の穴が、いくつも暗闇に空いていた。

届きそうで届かなくて、でも確かにそこにある、とても綺麗なもの。


『きれい、おほしさま』

『うん、星の名前とお揃いだ』

『おそろい』

『そうだよ。あのお星さまと同じくらいに、星もきっと、とても綺麗な人になる』