その人は、ここから見てもわかるくらい、背が高くて綺麗な顔立ちの人だった。

でも、女の子が羨ましがるような大きな目とか、ふわふわしていそうな髪とかは、わたしの手を握る人のものと似ていて優しい感じがする。

兄貴、って言ったね。つまりこの人……ハナのお兄さん?


「どうしたの兄貴。学校は?」

「ゼミが休講になって早く終わったんだ。お前がここに居るかと思って来てみた」


丘の上からその人を見下ろすハナの少し後ろで、わたしはハナの手をぎゅっと握ったままふたりを見ていた。

するとふいに、男の人の視線が動く。わたしの視線と真っ直ぐにぶつかって、思わず心臓が跳ねた。

ハナよりもきりっとした、大人の男の人。でも、ハナと同じ、とても柔らかな表情だ。


「きみは……セイちゃん?」


びっくりした。

その人の口から、まさかわたしの名前が出てくるとは思わなかったから。


「あれ? 兄貴とセイちゃん、会ったことあったんだ?」

「いや、初めてだよ。お前が写真見せながらいつも話すから憶えたんじゃないか」


くすくすと笑うその人に、ハナは「そうだったか」と呟いて、同じように息を吐き出して笑った。

それからゆっくりと、わたしを連れて丘を下りていく。


「…………」


なに、勝手に人の写真見せてんだ、とか。知らないところで話題にするな、とか。

いろいろ怒りたいとこなんだけれど、そう言うことすら思い浮かばず、わたしはハナの手に引かれていた。

空は夜。涼しい風が吹いている。