──随分日が暮れてきた。
ハナはいつも、わたしがひとりで帰ることを心配してか、空が暗くなってくると早々にわたしを帰そうとする。
ハナとこうして会うようになるまで、もっと遅い時間まで平気でひとりふらついていたわたしとしてはまだまだ居てもいいんだけれど、案外律儀で真面目なハナは、長くわたしを留めようとはしなかった。
「そろそろ帰ろっか」
今日も、気付いたら暗くなっていた空を見上げて、ハナがいつも通りに呟いた。
わたしは、本当は家に帰りたくなくて、まだここに居たいと思うんだけれど、そうするとハナが心配そうな顔をするから、もう素直に従うことにしていた。
「うん、帰ろ」
「ひとりで大丈夫?」
「大丈夫、ありがと」
鞄を持って立ち上がり、お尻の草を軽く払う。
丘のてっぺん、先にそこから少し下りたハナが、下から手を伸ばしてくれるから、その手のひらに自分の手を重ねた。
「ハナ」
ふいに下から聞こえた声。
それは馴染んだ名前を呼んでいるけど、聞き慣れはしない声だった。
「あ、兄貴」
振り返ったハナが、いつの間にか丘の下に立っていた男の人にそう言った。
薄暗くなってきた代わりに灯された街灯が、その人の居る場所をぼんやりと照らしている。