いつか、ハナが言っていたことがある。
『約束は嫌いなんだ』
なんで嫌いなのか、その理由については話さなかった。
ハナはわたしを見ずに、唐突に、そんなことをぽつりと言った。
どういう思いでハナがそのことを口にしたのか、自分から話さないハナに、わたしから訊こうとは思えなかった。
だけど、ただひとつ思ったのは、ハナにとっての“約束”は、わたしにとってのそれとは違うっていうこと。
“今”しかないハナに、先につながる“約束”なんてきっと意味がないし、必要もない。
昨日した約束も明日には忘れる。
そんな中で交わされた約束、それはきっと、交わした瞬間に終わったのと同じ。
『さあ』
ハナに、明日会えるかって訊かれたとき、わたしはそう答えて、ハナは笑った。
あれでよかった。正解だった。明確な答えなんて必要じゃない。
いつかのことは、期待だけして、いつか決めればそれでいい。
今決めるのは今のことだけ。ハナにとっての日々は、きっと、そういう風につながってる。
もちろんそんなのただの憶測だし、ハナにとってはもっと別の理由があるのかもしれないし、そもそも理由なんてものすらなかったりもするのかもしれないけど。
でも、ハナがそう言ったのは事実で──ハナがそれを憶えているかいないかはともかく──わたしがその言葉を憶えていることも確かで。
だからわたしは、ハナと約束はしないって決めてる。
いつか、という約束は。