ハナが学校帰りでカメラを持ってきていなかったっていうのもあって、その日は珍しくどこにも散歩に行かなかった。
わたしたちはずっと公園の丘のてっぺんに座って、日が暮れるまでどうでもいい話をし続けた。
ハナの、久しぶりに行った学校のこととか(知らない人だらけでつまらなかったって言ってた)。わたしが原付の免許を持っていることとか(めちゃくちゃ驚かれた)。
ほんと、いろいろ。
「セイちゃん、バイク乗れるんだ」
「バイクじゃないよ。原付。ちょっとポンコツの」
「へえ、いいなあ。俺も乗りたいな」
ハナが本当にうらやましそうな顔をするから、ハナも免許取ればいいよって、つい言いそうになった。
だけどハナが、わたしと同じように簡単に、こういう免許とか、取れるのかわからない。
だから代わりに。
「乗せてあげようか、うしろに」
「え? ふたり乗りってしてもいいの?」
「原付はダメだけど。わたしバイクの免許も取るから。そのときに後ろに乗せてあげる」
たぶんね、と続けると、ハナはふっと笑って目を細めた。
「それは、約束?」
「約束じゃない。だから忘れるかもしれないけど、でも、必ず乗せてあげる」
他の誰かが聞いたら、意味がわからないって呆れるかもしれない。
でもハナはそんな顔はしなくて、
「うん、楽しみにしてる」
と、わたしに答えた。
「よし、セイちゃんが忘れないように書いておこう」
「忘れるのはハナでしょ」
「あ、デリカシーないなあ」
そう言いながら顔では笑って、ハナは例のノートの一番新しいページを開く。
『セイちゃんがバイクに乗せてくれる(らしい)』
最後にかっこをつけるハナに、わたしはくすりと笑って「そうらしい」って呟いた。