鞄を横に寝ころばせて、足を投げ出してどこでもない場所を見た。

空と街の境目。鳥みたいに飛んでいく、1枚の楓の葉。


ごく普通の何気ない景色だ。いつもと変わりなくて、空は晴れててもどこか濁っているし、狭いし、緑も暗くて鮮やかじゃなくて。

でも、わたしにはなんの感動も湧かないこの景色も、きっとハナなら綺麗だって言うんだろう。

1日経てば忘れるこれを、残すために写真に撮って。


「…………」


なんとなく鞄に手を伸ばして、携帯を取り出した。カメラにモードを切り替えて、適当な場所に向けてみる。

小さな画面に映るのは、実物と少し色の違う空と、見切れている楓の木。

携帯を少し動かすと、画面の中もそれに合わせて景色を変える。

少し風が吹いた。

右から葉っぱが散って、左から、ハトが2羽飛んできた。


──カシャ


ボタンを押して、景色を止めた。

ハナのカメラの音と似ているけれど、それよりももっと電子的な音がした。


なんだかよくわからないものが撮れた。小さな楓の葉ははっきり写っているけれど、ハトは速く飛んでいたからかぼけていてなんだかUFOみたいだ。

思っていた画とはちょっと違う。うーん、写真って案外、むずかしいんだな。


「うん、いい写真だね」

「うわ!!」


突然の声に心臓が跳ねた。振り向くと、いつの間にかハナが笑顔でわたしの後ろに立っていた。


「セイちゃんこんにちは」

「ハナ! おどかさないでよ! いつからいた、の……」


どきどきする胸を押さえながら声を上げて、でも、それが尻すぼみになってしまったのは、今日のハナの格好を見てもう一回驚いたから。