「そうだ、セイちゃん」
ふいにハナが声を上げた。
わたしは顔を上げないまま、一度スンと鼻をすする。
「ここ、秘密の場所にしようか」
「……秘密の場所?」
「そう。また来よう。今日みたいなときに」
今日みたいなときっていつだろう。
そう思いながらのそりと視線だけをハナに向けると、こっちを見ていたハナが、にいっと悪戯っぽく笑う。
「セイちゃんが憶えててね、ここの場所」
「ええ! なんでわたしが……」
「だって俺、忘れちゃうから」
「無茶言わないでよ。わたしだって、ハナがでたらめに走り回る場所必死でついて来たんだから」
どんな道を辿って来たかなんて憶えているわけがないよ。
ただでさえ知らない場所なのに。せめてどこか、目印になるものでもあればさあ……。
「あ、」
そこで、ふと。
茶白の猫がてけてけと下りていった細く長い階段の先に目を向けてみた。
ずーっと下まで、民家の隙間を縫って真っ直ぐに続くその道のゴール。
そこにはまるで自然の壁みたいに、高い立派な木が固まって並んでいて、それはところどころ歪になりながら、でも、確かに、よく見ると。
広い場所を囲んで、並んで植わっているようで。
「……ハナ」
高い木と、随分と距離があるせいでじっと見ないと気付かないけど。
そうだ、やっぱり。なんか、見覚えのあるオブジェも、確かにある。