憶えていてもらいたいよ。

もう一度ハナの唇から零れた声。

切実な願いなんかとは違う、些細な、なんでもない、ただのひとつの心の言葉。


「…………」


目の前の表情を見ながら、今、わたしはどんな顔をしているんだろうとふと思った。

でも、訊かなくても、鏡を見なくても分かってる。

あの、ハナの映した写真の中のわたしと、おんなじ顔だ。


「……勝手なこと言わないでよ」

「別にいいでしょ。ただの願望だよ」

「自分は油断したら忘れるくせに」

「あ、それは言っちゃいけないんだ」


セイちゃんってデリカシーないなあ。

言葉とは違って、口調も顔も晴れやかに、ハナは言うから。

だからわたしはもう何も言い返せなくて、子どもみたいに口を尖らせながら目を背けた。


……なんか、もやもやする。

もやもやというか、なんというか。なんか、よく、わかんないんだけど。

ハナの言葉のひとつひとつ、どうしてか、妙に、他のものとは違って響く。


さっきもそうだった。ハナがわたしに言ってくれること。

なんにも特別じゃない、ありふれたただの言葉なのに。不思議と、涙が出そうになるんだ。

どうしてだかわらからないけど。

それでも鼻の奥はツンとして、じわじわと目の奥は熱くなる。

でも、そんなことを知られたくはないし、他人の前で絶対に泣きたくなんてないから、堪えるためにぎゅっと、下唇を噛む。