「ごめん、あの、今のは」

「辛くはないよ」


目を、見た。

ハナの目。

わたしなんかと全然違う。

驚くくらいに、綺麗な、色。


「辛くはないんだ。だって今、楽しいから」


ハナがまた、ずっと遠くに視線を飛ばす。

それよりもきっとまだまだ遠くから、吹いてくる、柔らかな風。

今、ここで、その音だけしか聞こえなくて、世界がここ以外、止まってしまったような気になる。

空は青くて、透明で。どこか、少し、きみと似ている。


「昔は辛かったかもしれないけど、今はもう憶えてないし。嫌な思いは、今は持っていないよ」


それにね、と、ハナは続けた。


「わからないでしょう、セイちゃんは。何もかもがいつだって、新鮮に見えるこの感覚」


ちょっと意地悪な感じで笑って、ハナはもう一度わたしを見た。

ああ、と、思う。

わたしは呆れた振りをして溜め息を吐きながら、そっと、ハナから視線を逸らした。


強がりで、そんなことを言っているわけじゃないのがハナらしい。本気でそう思っているんだ。

毎日が新しいことばかりの、この世界が、ハナは好きだと。


……そっか。だからハナは、わたしと違うものばかりを見られるんだ。

ハナの居る世界には、どんな濁ったものも無い。

何もかもが透明で、毎日新しく、ハナがそこに色を着けていく。


それはとても鮮やかな色。

わたしの見る世界には、決して無い、綺麗な色。