記憶が1日しかもたない。

ハナの頭の中には、いつだって、たった1日分の記憶しかない。


『今この瞬間に見たものを、この先もずっとね』


あのときは、ハナの記憶がわたしのそれとは違うってことを知らなかった。

知るわけもない。思い至るわけもない。

その言葉の中に、どんな重みが含まれていたのかなんて、わたしにわかるわけがない。


今だってそうだよ。

記憶のことを知ったからって、想いまで知れるわけじゃない。


1日過ぎれば、今のこの瞬間をハナは忘れてしまうんだろう。

それってどういうことなのかな。きっと、忘れたことすら忘れてしまうくらい、綺麗に、何ひとつ残らず、なくなってしまうってことなのかな。

わたしのことみたいに憶えていたとしても、それは紛れもないこの瞬間のことじゃなく、「思い出した」っていう新しい記憶。


ハナは忘れてしまうんだ。

自分の頭の中で、憶えておきたいことを、憶えてはいられない。


わたしにはそれがわからない。

ハナがどんな想いでわたしにあの言葉を言ったのか。どんな想いで、忘れてしまう“今”の、写真を撮り続けているのか。

わたしには、わからない。


「辛くないの?」


その質問は、自分にとっても不意だった。

考えるよりも先に言葉になって出ていたもの。


だから、言った瞬間後悔した。わたし今、なんて心無い質問をしちゃったんだろう、って。

辛くないか、なんて。

そんなの辛いに決まってるし、そもそもその質問をされること自体が、きっと、とんでもない苦痛のはずなのに。


だってわたしもそうだから。そんなことくらいわかってる。

わかってたのに、なにを、わたし、こんな馬鹿みたいなこと。