「……ハナ、写真撮らなくていいの?」

「あ、忘れてた。大事だった」


ハナは、階段の一番上に腰掛けする、広い風景をカシャリとフィルムに焼き付けた。

でも、さっきまでは何回もシャッターを切っていたのに、この景色は一度しか写真に撮らなかった。

わたしもハナの横に座る。太陽の光が真っ直ぐに、でも、優しく全身に当たる。


「…………」


ハナはじっと、レンズ越しにじゃなく、自分の目で今の瞬間を見ていた。

まるで刻みつけているみたいだって思った。ずっと自分の中で憶えておくために、色とか、音とか、感覚とか、そういうのを丁寧に記憶に沁み込ませているみたいに。

……きっと、忘れてしまうのに。


「ねえ、ハナ」


振り向くハナに、わたしもゆっくりと視線を合わせる。

穏やかな表情。すっかり晴れた今の空みたいに、少しの曇りだって無いような顔だ。


「記憶が1日しかもたないって、ほんと?」


訊ねたわたしに、ハナはなんでかちょっとだけ笑った。

それから「うん」と、そのままの顔で答えた。


「頭のビョーキでね。じゃなくて、ケガだったかな。忘れちゃった」

「そ、っか……」


前に、ハナが言っていたことを思い出す。


『綺麗だと思うから憶えておきたい。だから俺は写真を撮るんだ』


憶えておくために。

綺麗だと思ったものを、この先もずっと。