猫だけが行く細い細い路地の奥。
その先は行き止まりじゃなく曲がり角。下へ続く階段が、さらに先へ進んでいる。
その秘密の階段を、降りる人の目の前には、遮るものなんてたったひとつだってなかった。
街を囲む山脈、地元を走るローカル電車、わたしの通う学校、見慣れた町並み。そして、地平線まで広がる透明な晴天。
視界の全部にそれが広がっていた。それがどこまでも広がっていた。
普段見ている景色とは全然違う、それは、とても、とても広い空。
「すごい……こんなところがあったなんて俺知らなかったよ」
「うん……わたしも」
なんだろ、この心臓の音。嬉しいだとか怖いだとか、そういうときのとはまったく違った胸の高鳴りだ。
興奮してるのかな。ううん、違う。なんだろうこれ。でもなんだか、全然、鳴り止まない。
「どきどきするね」
ハナが言う。わたしのほうなんて向かないまま。
わたしも、ハナのことなんて見ないまま。
でも、同じものを見て。
「うん、どきどきする」
「ずっとここに居たいくらいだ」
感動だなあ、とハナが呟くのを聞いて、そっか、これって感動してるんだ、って知った。
わたし、この景色を見て、素直に、感動してる。
綺麗だって。