ハナとのデートは、とてもじゃないけどデートなんて呼べるようなものじゃなかった。
たぶん、今どき幼稚園児だってもっとムードのあるデートをしているはずだ。
なんと言ってもただ、街を歩くだけ。
おまけにお洒落な商店街が売りのこの駅前において、なぜだかハナはその反対の、古い住宅街のほうへと向かって行くから、余計にデートなんていう雰囲気じゃなくなっていくんだ。
緩い坂道をくねくね曲がりながら、上へ上へ。立ち寄るのはもちろんアパレルショップなんかじゃなく、小さな公園やボロい神社。
ハナは、そこで見つけた野の花とか、虫とか、鳥とかを気まぐれに写真に撮ったり、たまたま出会った人たちと、まるで旧知の仲みたいに楽しげに喋ったりしていた。
わたしはそんなハナを、少し離れたとこから見ているばかりで。時々、溜め息を吐いては、知らない空を眺めたりした。
カラッとした風が吹く。
流れた髪を掴んだところで、声が、聞こえた。
「セイちゃん!」
嫌な予感がした。この、ちょっと声を張り上げた、嬉々とした呼び方。
ハナは、カメラを抱えながら、民家に挟まれた狭い道路の真ん中で、もっと狭い脇に逸れる小路のほうを向いていた。
ビッと指差した先。わたしには見えていないけど、何があるかなんてもう想像はつく。
「追いかけようセイちゃん!」
「またあ!?」
ちょっと待ってよ。なんて言う暇もなくハナは小路へと姿を消した。
そうするともうどうしようもなく、わたしは畳んだ傘を振り回しながら、駆けていくハナの背中を必死に追いかけるしかない。
ああ、これで何度目だろう。
ハナが野良猫を追いかけて、突然走り始めるの。