肌がまだ少しべたつく季節だ。

衣替え前の夏服のブラウスは、あんまり風通しが良くなくて、湿った肌によくくっつく。


ローファーの爪先が古いマンホールを踏んだ。

頭の上で、小さな飛行機が、雲を引きつれて飛んでいった。



帰り道を変えたのは、たぶん、本当にただの気まぐれ。

ほとんど一本で繋がっていたような学校から家までの道を、ふたつめの交差点で右折したのは、別に何か目的があってのことじゃない。

いつもどおり6時間目までで終わった学校。部活も補習も、他の予定だってひとつもないから、カバンを背負って向かう場所は、たったひとつしかないはずなのに。


──ニャア

とどこかで猫が鳴いた。数歩分先の道の上で、茶色のしましま模様の猫がときどき振り向いては前を歩いていた。

道案内してくれているのかな、なんて変なことを考えてみたら、それの返事みたいにまた「ニャア」と鳴くから、またなんとなくの気まぐれで、少し曲がったしっぽの先を追いかけるみたいにその後を歩いた。


ここは、いつもと違う帰り道。

干からびたミミズ。珍しい名前の表札。錆びた看板。ふわふわ揺れる道端の花。

そんなものを見つけながら、ときどき、空を見て、知らない道を、どこかへ向かってただ歩いた。