「…………」


ハナは、きょとんとした顔でわたしを見ていた。

それからそっと、口元を緩める。


「俺、昨日きみと会おうって、約束をしてた?」


ちょっとだけ、間を空けて。

わたしはふるふると、首を横に振る。


「約束は……してない、けど」


会えるかな、と訊かれた。うん、とは答えなかった。

約束なんてしなかった。

それでもハナは笑っていた。


「じゃあいいよ。謝る必要なんてないよね。それにセイちゃん、今日は来てくれたじゃない」


今とおんなじ顔で、あのときも、約束をしないわたしを嬉しそうに見送った。

鮮明に思い出せる。何気ない、たった一瞬の、きみの表情。


なんとなく、思う。

もしもあのとき、わたしが「さあ」じゃなくて「うん」と答えていたのなら。

きみは、どんな顔をしたんだろう、と。

すごくどうでもいいことだ。たぶん、同じ顔をしたんだろうし。

でも、なんだか、なんとなく、思う。

わたしがあのとききみと確かな“約束”をしていたら、きみは笑ったけど、今と同じような笑い方はしなかったんじゃないのかなあって。

本当に、とても、どうでもいいことなんだけれど。