「稲妻でも見られれば、もっとどきどきしたんだけど」

「物騒なこと言わないでよ。自分に落ちたら危ないって」

「あは、そうだね。とても危ない」


ちっともそんな風になんて思ってないみたいにハナは笑う。

それからもう一度、空の彼方の虹を見上げ、雨上がりの透明な空気を大きくいっぱいに吸い込んだ。

目を閉じて、ほんの僅かの間だけ、呼吸を止めて。

まるで今のこの瞬間を、自分の中に閉じ込めているみたいだと、思った。

いつまでも。いつか過去になって消えるこのときを。


「…………」


虹は、もう、少ししか残っていなかった。

残しておくことなんてできない瞬間。

でも、残しておく。

写真じゃなく、自分の中に。

きらきらと光る横顔を見上げながら、わたしは眩しくて、目を細める。


「……ごめんね」


ゆっくりと開いたハナの瞳が、わたしの方を向いた。

わたしの呟きに「何が」と、静かに返す。


「昨日、わたし、ここに、来なくて」


まさかハナが、昨日も来ていたなんて思わなかった。

思うはずがない。あんな天気の中で、ここに立っていたなんて。