「虹だよ」


ハナの指が真っ直ぐに示す先。

楓の木。橋上駅舎。低い雲。

それよりもずっと高い場所で、どこまでも青い空の中、薄く色づく七つの色。


「……すごい」


素直に、驚いた。

まだ少しきらきら光る青空の下で、見えた、たったひとときの輝き。

今、この瞬間にしか出会えない、束の間の奇跡。


「いいタイミングだったね。さすが、セイちゃんの日頃の行いがいいからだ」


この間も聞いたようなセリフを言って、ハナが、まだ水の滴る傘で空を指す。


「昨日は大雨。今日はちょっと雨で、晴れて虹」


それから、肩に掛けていたカメラで、やっぱり今日もまた、写真を撮った。

カシャリ、と収められる一瞬の虹。

目の前に浮かぶ色はだんだんと薄くなっていくけれど、焼き付けられたそれは、きっと、ずっと色褪せずに残る。


「そういえば」


ふと、ハナがレンズからわたしに視線を移す。


「本当にすごかったよね、昨日の雨。写真撮るどころじゃなかった」

「う、うん……ほんとに」

「ね。景色が今日と全然違くて、なんかどきどきした」


そうかな、という言葉は呑み込んだ。

すごい雨だったし、景色もいつもと違ったけれど、どきどきなんてしなかった。

でもきっと、きみは確かに、そんな風に感じたんだろう。

たぶん、わたしときみの見る景色は、一緒でも、違う。