ハナのところまであと少し、というところまで来て、立ち止まってハナを見上げた。

誰も居ない場所で、緩く吹く風の中に居る姿は、やっぱり綺麗だと、今日も思う。

まるできみが居るその場所だけが、世界が、違っているみたいだ。


「……来てると思わなかった」


声を掛けると、どこかを見ていたハナの視線がわたしに向く。


「何が?」

「ハナが。今日も、会うなんて思わなかった」


薄くて白い雲が、見上げた先を泳いでいく。

ハナは、傘に付いた滴を払いながら、こてんと首を傾げた。


「会えるよ、そりゃあね。俺ほとんど毎日、ここに来るから」

「毎日? じゃあもしかして、昨日も来たの?」

「来たよ。すごい雨だったよね。大雨。びっくりした」


確かに、すごい雨だった。

そんなすごい雨の中、こんなところに来るやつなんているはずないと思った。


「……来てたんだ」


ぽつりと呟いた声は、小さすぎてハナには聞こえなかったらしい。

きょとんとした顔で、わたしを見つめたまま。


「ていうか、そんなことよりさ。セイちゃん、早く来てよ」


ハナがぶんぶん手を振るから、今度はわたしが首を傾げる。

そうして残りの少しをのぼってハナの隣に立つと、ハナはこの間と同じように、「ほら」と言って右手を伸ばした。