足がもつれかけたところで、立ち止まって、傘を差した。

ちりちり痛む心臓のあたりを押さえながら、雨の降らない小さな屋根の下で、大きく息を吸って長く吐き出す。


「…………」


昨日の大雨は落ち着いたけれど、今も名残りでしとしとと柔らかい雨が降り続けている。

この雨は、お昼過ぎには止むって聞いた。

少しずつ明るくなっている空を、傘を除けて見上げてみる。

西の方はもう雲が薄くなって、陽が差しているみたいだった。

薄っすらと濡れた肩に傘の軸を置いて、くるくると柄を回す。ぱらぱらと飛ぶ水飛沫。地面に出来た水溜りを靴で踏む。

そのうち晴れに追いつかれそうだって。思いながら、東の方向へ足を進めた。



そこへ向かおうと思っていたわけじゃなかった。

ただ家に居たくなくて、できるだけ遠くへ行きたくて、苦しいことを、考えなくてもいいような場所を探していただけだった。


空がだいぶ、明るくなってきた頃だ。

休日の多い人通りと、まだ良くはない天気のせいで、駅前の大通りは随分と歩きにくい状態になっている。

カラフルな丸がそこかしこでふよふよと揺れて。わたしのそれだけが、そろっと外れて細い道へと入っていく。