だからわたしも本当は内緒にしたいはずだろうと、三浦さんはちょっと話しにくかったみたいだ。
そんなこと気にしなくていいのになって、こそっと小さく笑ってみる。
「三浦さんて、自転車乗れる?」
「自転車? うん、乗れるけど?」
「じゃあ大丈夫。簡単だからすぐに乗れるよ。あとは学科かなあ、これもそんなに難しくはないけど」
「でもあたし、そういうの苦手だからなあ。ちょっと心配……」
「んー、でも確かに、勉強はしたほうがいいかも。あ、問題集があるから貸そうか」
「え、いいの!?」
こくりと頷くと、三浦さんは「ありがとー!」とがっしりわたしの両手を掴んだ。
そうしてぶんぶんと振られるから、たじろぎつつもされるがまま。元気だなあと、悪天候なのに晴れ晴れとした顔を見ながら思う。
「じゃあ明日……は休みだっけ。来週持ってくるね」
「うん、本当にありがとう倉沢さん!」
相談して良かったと、大したことなんてひとつも言えてないのに言われるから、少し申し訳なくなる。
何度も手を振りながら教室を出て行く三浦さんを見送って、わたしはもう一度鞄を背負い直した。
職員室に寄ってから、昇降口で自分の傘を拾って、滝みたいな雨に向かって突き出す。
広げると、途端に端から流れ落ちていく滴。
地面全部が水たまりで、あっという間にローファーの中に水が染み込んだ。
真っ黒な空。立っているのも辛い大雨。
何気なく、東の方向に目を向けてみた。
見えるのは当然、グラウンドに立つ照明くらい。他には何も、見えたりしない。
──ドンと、帰宅の人波に肩を押されて、いつの間にか立ち止まっていた足を動かした。
今日は真っ直ぐに、家までの一本道を歩いて帰った。