そこは、わたしのアルバムにあったあの思い出の丘だ。

ハナを必ず連れて行こうと決めていた場所。


「もっと奥へ行こう、ハナ」

「ん、そうだね」


ハナの手を握って、花を踏まないようにゆっくりと花畑の中へと入っていった。

膝から下は鮮やかな花に埋もれている。

夜の闇で見えにくい分、まるで薄紫の海にでも浸かっているみたいだって思った。



空は、どこまでも広がっていた。

数えきれないほどの星は、あんなに遠いのに、すぐ近くにあるような気がして。

ゆっくりと手を伸ばす。それでも手には、掴めない。

初めて来たあの日から、背は随分伸びたのに、それでもまだ、掴むことのできない星。


「綺麗だね」


もう一度、ハナが言った。


「うん、綺麗だね」


今度は答えることができた。

素直な思いだった。


「……ここを、ハナに見せてあげたかった。連れて行こうって決めてたから」

「ん、ありがとう。すごくうれしい。来られてよかった」

「うん」


ハナはずっと空を見上げていた。

遥か彼方で光る星。そこに何を、思っているのか。


「そうだハナ、写真撮ってあげるよ。撮れるかわかんないけど」


抱えて持ってきたパンパンのカバンから、重たいカメラを取り出した。

夜に写真を撮る方法も本で読んではいたけれど、うまくいくかは自信がない。


「撮れるかわかんないの?」

「超初心者だから」

「俺が撮ろうか? セイちゃんが写ってた方がうれしいでしょ」

「やだ。わたしがハナを撮りたいの。撮れるかわかんないけど」


困った顔のハナを置いて、わたしは少し距離を取る。

覗いたファインダーの中。切り取った小さな四角の中には、花があって、星空があって。

そして、きみが居た。