「忘れたくないのなら、ずっと叫んでいればいいよ」
潮の香りが少しずつ漂ってきた海の近く。
目的の場所はもうすぐだった。
「忘れないように、寝ている間だってずっと、大きな声で、叫んでいればいい」
星がどんどん数を増やす。
夜空に浮かぶ白い光。
「こういう風に、ずっと!」
息を吸った。
アクセル全開。風に逆らって、声を出す。
「僕の名前は芳野葩!!」
大きく響いた。
どこまでも遠くへ。遮るもののない空へ。
「好きな子の名前は倉沢星!!」
その名前は、記憶は、どこまでも。
「ちょっと……セイちゃん!」
「こうして叫んでれば忘れないでしょ。ほら! 僕の名前は芳野葩! 好きな子の名前は倉沢星!!」
すれ違った車の人が、ぎょっとした顔でこっちを見ていた。
だけどお構いなしに叫び続ける。
わたしの名前と、きみの名前。
「ぼくのなまえはよしのはな!! すきなこのなまえはくらさわせい!!」
バイクの音に掻き消されないよう、喉が嗄れるくらいに大きな声で。
刻みつける。どこまでも。
きみの記憶に。確かな今に。