記憶を辿って道を進んだ。
空はすっかり暗くなって、民家も少しずつ減っていく。
わたしたちの住む街も、決して都会とは言えないけれど、この辺りはそこよりもずっと田舎に近い場所だった。
もうここは知らない町。随分遠くまでやって来た。
だけど不思議と不安はない。
ここが世界の果てだとしても、今なら何も、恐くなんてなかった。
他に誰もいない交差点で、赤信号で止まっていた。
ここは街灯も少ないからか、わたしたちの街よりも星が多く見える。
エンジンの音だけが聞こえる、静かな夜だった。
「ねえ、ハナ」
なんだか久しぶりに声を出した気がした。
「ん」と返事は後ろから来る。
「わたしのこと、忘れたくない?」
少しだけ間があった。
答えに悩んでいるわけじゃなさそうだった。
「忘れたくないよ」
「そっか」
信号が青に変わる。
わたしたちだけの交差点を、小さなバイクが進んでいく。
暗くて静かな真っ直ぐの道。
世界に、まるで、わたしたちだけになってしまったみたいだ。
星が、瞬く。