きみが居る場所が、わかっていたわけじゃない。
ただ、なんとなく、そこに居るんだろうと思っていた。
公園の小さな裏口から続く、丘陵に沿った真っ直ぐな階段。
住宅の隙間を縫ってところどころうねうねと曲がるそれは、どこでもない場所へと繋がっている。
いくつもの段をのぼったその先。
階段の終点の、近所の猫の昼寝スポット。
いつか見つけた場所だ。ここからの景色を見て、わたしたちは揃って言葉を失ったっけ。
とても綺麗な景色だった。でも今でも何より鮮やかに思い出すのは、ここから見える景色の中で笑う、きみの顔。
ここは、わたしときみの、秘密の場所。
「ハナ」
小さな声で、呼んでみた。
膝に置かれていた頭が、そっと持ち上がる。
「……セイちゃん?」
「こんにちは」
「なんで……ここに居るの」
ハナは随分驚いた顔をしていた。
わたしはハナの場所より数段下で、見上げる形で立っている。
「ハナこそ、なんでこんなところに居るわけ」
「……わかんない。ここ、どこだろ。セイちゃんは知ってる?」
「知ってる。教えないけど」
「あは、なにそれ」
「秘密の場所だもん」
ハナは笑顔だった。でも笑ってなんかいなかった。
少し風が吹いて、きみの髪が揺れる。
綺麗なそれを、わたしは見ている。