ハナ、きみは今、わたしに側に居てほしい?

思い過ごしだったり。自意識過剰だったり。

それならそれで別にいいんだ。ハナがひとりでいたいなら、それでわたしは構わない。


でもね、もしもきみがわたしに隣に居てほしいと心のどこかで思うなら。

わたしはいつだって、どこへだって、きみを探しに行こうと思うよ。


きみの手を握るために。



「ちょっと、もういっかい、出掛けてくる」


お母さんに背中を向ける。原付のキーを取って、置いていたカバンを掴んで。


「いってきます!」


家の玄関を飛び出した。


「いってらっしゃい」


聞こえた声は夕空に響く。

世界はオレンジに染まっている。


わたしは原付にキーを挿した。ペダルを蹴る。重たいエンジン音が鳴る。

メットをかぶってハンドルを握る。アクセルを、開いた。



遠くに行きたくて買った小さなバイクだ。

それでもどこにも行けなかった。

わたしを遠くに連れて行ってくれたのはきみだ。

このバイクは、きみのところへ連れて行ってくれる。


ハナ。


きみはまだそこに居てくれているかな。

不安で恐いよ。でもわたしも行くね。


もしもきみが今もそこで、たったひとりでいるのなら。

大切なことを考えて、涙を流せずにいるのなら。


今きっと、泣きたいときに泣けない場所に居るきみに。

大声で泣いて、心から笑って欲しいから。


わたしはきみの側に居る。

待っていて、ハナ。すぐに、行くからね。