「もうあと少しだから、お母さんひとりで出来るよ」
「でも……」
「星はそうやって、すぐに自分の心隠しちゃうのが悪い癖ね。女は、後先考えず突っ走るくらいが丁度いいの」
「……お母さん、そのせいで離婚するくせに」
「あ、星ったらデリカシーないわねえ」
ぷくくと笑うお母さんを、わたしはじっと見つめて。
『セイちゃんデリカシーないなあ』
笑ってくれたきみを思う。
今日、いつもとは違う顔だったきみを、思い出す。
何かをひとりで、必死になって考えているきみ。
ハナはあのとき、何を思っていたんだろう。
ひとりでいたかった? 誰にも言えないことだった?
それとも少しでも、わたしに側に居てほしいと、きみは思ってくれたかな。
「……なにができると思う? わたしに」
きみが何を考えているのかすらわからないわたしが、一体きみに何をしてあげられるのかな。
どうすればきみは、いつか見たみたいに、綺麗な顔で笑ってくれるのかな。
あんな顔を、しないで。
「星は、何をしてもらったの?」
「え?」
「何ができるかわからないなら、してもらったことをやればいいのよ。とても簡単なことでしょ」
「してもらったこと……」
ひとりで作業を続けるお母さんの、屈めた背中をじっと見ながら。ハナが……膝を抱えていた小さくなっていたわたしにしてくれたことを、考える。
「……側に居てくれた」
泣きたくないとき、泣きたいとき、大きな声で笑うとき。
ハナはわたしの側に居た。
『いつかきみが、笑いたいときに笑って、泣きたいときに泣けたらって。そういう場所に辿り着けたら、そのときには俺、側に居るよ』
だからわたしもハナに言ったんだ。
わたしもハナの、側に居るって。