ひとりで通っていた道をハナと並んで歩くのはなんだか変な感じだ。
歩き慣れた道も、ハナが隣に居るだけで、いつもと違う新鮮な場所に思える。
「ハナ、こっちのほうには来たことある?」
「たぶん来たことない。学区も違うし、全然知らないところだな」
「そうだよね。わたしも中学生までは隣の学校の地区になんてほとんど行ったことなかったし」
今はよく行くあの場所だって、高校に上がってから知った場所だ。
中学生のときにはまだ、遠くに行きたいなんて考えなかったし、家から近い小さな範囲だけでわたしの世界は満たされていた。
でも、高校生になってすぐ、少しだけ変わった。
世界は広がらなかったけれど、小さな世界は色を失くした。だからそこから必死で逃げだす事ばかりを考えるようになった。
それでもなかなか抜け出せなくて、遠くに行きたくて買った小さなバイクでも、わたしはどこにも行けなかった。
本当は、どこにも行こうとしていなかっただけなんだと、今は知っている。
逃げたくて遠くに行きたくて、でも本当は、わたしはずっとあの場所に居たかった。
大切なものはたくさん持ってた。それはわたしの宝物だった。
捨てたくても捨てられないもの。捨てたくなんてなかったもの。
これからもずっと、わたしの宝物であり続けるもの。
「ん、どしたのセイちゃん」
言われて、ハナの手を随分強く握っていたことに気付いた。
「あ、ごめん……なんでもないよ」
「そう? ならいいけど」
慌てて緩めると、ハナがふわりと笑ってくれる。
気恥ずかしくて目を逸らしてしまうけれど、本当は、いつまでだってその表情を見ていたい。
そんなことを言ったらきみはどうするかな。優しいから、困った顔で、でもやっぱり、笑ってくれるに違いない。
きみのおかげなんだよ。
きみのおかげでわたしは、自分がずっと抱き締めていた大切なものを、思い出した。