「今日も芳野先輩に会うんでしょ」
席を離れようとした三浦さんが、ふと思い出したように振り向いた。
「うん、会いに行くつもりだよ。クッキーもちゃんと今日一緒に食べるね」
「そっか、うん。でもうらやましいなあ。ふたりって、ほんと仲良しだよね」
「え、っと……」
うん、ていうのも気恥ずかしくて、そうじゃないなんて言いたくもなくて。
なんて答えればいいかわからずに固まっているわたしを、三浦さんは愉快そうに眺めている。
「あはは、しあわせそうでなにより」
「う、うん……ありがと」
三浦さんを見送ってから、ひとり机に顔を突っ伏す。
やばいな。顔、赤くなっていたかもしれない。
両手で隠した頬は熱い。
◇
ハナとは変わらず、毎日会っている。
学校帰りにいつも、家とは違う方向のあの街へ行くことはそう簡単でもないけれど、苦に思ったことは一度だってなかった。
大抵ハナは私服で小さな丘にいたり、時々噴水の広場にいたり。
たまに見られる制服姿はレアで、そのときはいつもと違う商店街の方に出て、ほかの学生たちに混ざって制服デートを楽しんだりした。
ただ一度だけ。わたしの家に、ハナを呼んだ。
それはハナに、会って欲しい人がいたからだった。