◇
学校の休み時間、ひとりで雑誌を眺めていたら、ひょこっと三浦さんの顔が視界に入って来たので声が出ないくらいに驚いた。
わたしのあまりの驚きっぷりに三浦さんも驚いたみたいで、目を見開いたあとにお腹を抱えて笑っていた。
「集中しすぎだよ倉沢さん」
「ご、ごめん……でもびっくりしたあ」
「あはは、こっちこそごめん。そんなに驚くと思わなくてさ。一応声かけたんだけどね」
どうしたの、と訊くと、三浦さんはかわいらしい紙袋をひとつわたしにくれた。
中を覗くと、いい匂いのするクッキーがたくさん入っている。
「もうすぐ出すうちの新商品。お母さんが倉沢さんに持ってけってさ。芳野先輩と一緒に食べて」
「うん、ありがと。ハナこういうお菓子好きみたいだから喜ぶよ」
「ほんと!? じゃあまた今度持ってくるね!」
三浦さんはわたしがハナの話をすると妙に嬉しそうだ。
そんなにハナのこと好きなの? と前に訊いたら「そうじゃなくて倉沢さんが芳野先輩の話をしているのを聞くのが好きなの」と言っていた。
よくわかんないけど楽しそうならそれでいい。
「ところで何をそんなに真剣に見てたわけ?」
わたしの手元の雑誌を、三浦さんが覗き込む。
「あー……えっとねえ……」
「これって……写真?」
わたしが読んでいたのはカメラの扱い方の入門書だ。
今は人物を撮るときのコツをこの本に教えてもらっている。
「倉沢さんってカメラ趣味だったの?」
「そうじゃないんだけど、お父さんに昔使ってた良いカメラ貰ったから、ちょっと使ってみようかなって」
「へえ、そうなんだ」
「でも案外奥が深くてね……ちょっとカメラ舐めてた……」
一度試しに撮ってみたけど、撮りたい構図とずれていたしピントも微妙に合わないしで、まったく思っていたようには撮れなかった。
なんの知識もないくせにあれだけの写真を撮っていたハナを、ちょっとだけうらめしく思う。