「セイちゃんの名前って、『星』って字を書くんだ」


さっきわたしのが思ったのとおんなじようなことを言うから。

突っ込むところそこなんだ、ってちょっと呆れたような安心したような。

でも。



「星」



ふいにハナが呟くから、また、わたしの胸はどきんと鳴る。

ああ、今ハナに振り向かれたらやばいな。


「綺麗だね。セイちゃんに、ぴったりの名前だ」


ノートに書かれたわたしの名前を、ハナは愛おしそうに指でなぞった。

体中に響く心臓の音を聞きながら、わたしはハナの、横顔を見つめる。


「……わたし、その名前、自分に合ってると思ったこと一度もないよ」

「そう? セイちゃんは自分に対して俺と反対の考え持ってるね。俺はセイちゃんに似合ってると思うよ」

「どこが? わたしのどこが、その名前に合ってると思う?」

「ん、ナイショ」

「え?」


目をぱちくりさせるわたしに、ふふ、とハナが笑う。

そうしてパタンとノートを閉じた。


「セイちゃんは、知らなくていいよ」



独り言みたいだった。

どういうこと、と訊く前に、ハナが「さて」と立ち上がる。


「今日はどこに行こうか」


ショルダーバッグを背負い直すと、ハナは空に手を向け大きく伸びをした。

わたしものそりと腰を上げる。

良い天気だった。

空は青くて、楓が鮮やかに色付いている。