夜でよかったと思った。
高校生にもなって両親と手を繋いで歩くだなんて、人に見られたら恥ずかしすぎて引きこもりたくなる。
だったらひとりで歩けばいいのにって、自分で自分に突っ込みながら、それでも手は離さなかった。
お父さんは、もうそんなに見上げなくなった。
お母さんは、いつのまにか背を追い越していた。
変わってしまったんだなあと思う。
変わっていくんだなあと思う。
いつまでも同じままじゃいられない。
世界は刻一刻と昨日を消して、新しい明日へと向かって行く。
でも、変わり続けながら、繋がり続けるものもある。
わたしがわたしであるように。
姿が変わって、心が変わっても。それだけは不変の、確かな事実。
お父さんは、もうそんなに見上げなくなった。
お母さんは、いつの間にか背を追い越していた。
だけどあのときとおんなじだ。
わたしの手が成長しても、繋いだ手はやっぱり大きくて、それでいて、温かい。
安心できる温もり。心から信頼できる場所。
大切な、家族の居る場所だ。
お父さんとお母さんに、これまで思っていたことを少しずつ話した。
いつからか喧嘩をすることが多くなったふたり。怒鳴り声を聞くたびに心臓がぎゅっと痛むから、目を閉じて耳を塞いで、布団の中で小さく丸くなっていたこと。
昔のように戻って欲しいと、ずっと思っていたこと。だけど戻りはしないって、本当はわかっていたこと。
もうわたしはいらないんじゃないかって考えたこと。
自分のことが、とても嫌いだったこと。