「星っ!!」
ずっと先の暗い道から、わたしを呼ぶ、声がした。
遠くの街灯の下で微かに浮かび上がる姿に、前へ進もうとしていた足が止まる。
「……お母、さん?」
見間違いで、空耳かと思った。
だけど見間違いでも空耳でもなく、確かに向こうから駆けてくる、お母さんの姿と、声が、わたしに届いていた。
近くなるにつれてよく見えてくる表情は、繕った笑顔でも怒った顔でもない。
今にも泣きそうな、顔をしていた。
「星!!」
もう一度、お母さんはわたしの名前を叫んだ。
そしてわたしが、お母さん、と応える前に、駆け寄ってぎゅうっとわたしを抱きしめた。
「…………」
また、わたしの体は動かなくなった。
驚いて、体だけじゃなくて頭の中まで止まってしまって。
でも、わたしより少し背の低いお母さんの肩が、震えていることだけは、わかっていた。
「星! ごめん、ごめんね……!!」
痛いくらいに抱きしめながら、わたしの耳元で、お母さんは何度もそう繰り返した。
何に対しての「ごめんね」なのか。
でも。それは久しぶりに聞く、お母さんからわたしへの、本当の言葉なんだと、気付いた。
「おい……! 居たのか!?」
もうひとつ、聞き慣れた声が道に響いた。
お母さんの肩越しに見えた、走ってくるお父さんの姿。
「……星!!」
目が合うと、お父さんはお母さんとおんなじようにそう叫んだ。
そうしてわたしをお母さんごと、きつくその腕の中に包んだ。